具体フィールドミュージアム

具体フィールドミュージアムについてAboutABOUT

『具体』を知れば、世界が広がる

野外具体美術展会場風景、1956年 提供:大阪中之島美術館 © Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association
野外具体美術展会場風景、1956年
提供:大阪中之島美術館
© Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association

兵庫県・芦屋を発祥とする前衛美術グループ「具体美術協会」(「具体」、1954-1972)には、当時の若き前衛美術家が集いました。画家・吉原治良(1905-1972)をリーダーとし、1950年代後半には芦屋公園の松林での「真夏の太陽にいどむモダンアート野外実験展」(1955年)を皮切りにして、穏健なモダニズムの枠をこえて型破りな絵画やパフォーマンスを発表し、これらの「具体」の革新的な活動は、今日、国際的に高く評価されています。
兵庫県阪神南県民センターでは、進取の気性に富んだ「阪神間モダニズム」の文化風土を背景に誕生した「具体」について、作家や活動の軌跡などの魅力をご紹介するとともに、ゆかりの地を巡るマップやまち歩きのモデルコースを作成するなど、「“具体”を知る、見る、体験する」をテーマに、エリア全体をミュージアムに見立てた「具体フィールドミュージアム」を実施します。
阪神南エリア(尼崎市・西宮市・芦屋市)で花開き展開された「具体美術協会」の魅力をみなさまに知っていただき、阪神南エリアを周遊していただければ幸いです。

具体美術協会とは

GUTAI ART ASSOCIATION

左より田中敦子、嶋本昭三、一人おいて吉原治良、吉田稔郎、白髪一雄、村上三郎(芦屋市 吉原邸)、1958年 提供:大阪中之島美術館
左より田中敦子、嶋本昭三、一人おいて吉原治良、吉田稔郎、白髪一雄、村上三郎(芦屋市 吉原邸)、1958年
提供:大阪中之島美術館

「具体美術協会」(「具体」、1954-1972)は、兵庫県芦屋の画家吉原治良(1905-1972)のもとに集まった若手美術家によって結成された前衛美術グループです。吉原は、強いリーダーシップを発揮し、持ち前の企画力で「具体」を国際的に活動するグループに育てました。メンバーには常に作品本位の審美眼で応じて「今までになかった絵をかけ」というモットーを掲げて、人のまねをせず自らが創るように、メンバーの想像力を刺激し、彼らの創造を鼓舞しました。

『具体』創刊号、1955年1月1日刊
『具体』創刊号、1955年1月1日刊
アトリエでの吉原治良(自作の前で)、1970年
アトリエでの吉原治良(自作の前で)、1970年

「具体」の初仕事は1955年1月発行の機関誌『具体』創刊号でした。そのなかで、吉原は「現代の美術が厳しい現代を生きぬいていく人々の最も解放された自由の場であり自由の場に於(お)ける創造こそ人類の発展に寄與(よ)し得る事である」「われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示したいと念願しています。」と記し、同年夏に芦屋公園の松林の自然を舞台にした型破りな野外展を実現させます。メンバーは既成の絵画の概念を打ち破る冒険的な試みの作品を発表し、周囲を驚かせて子供たちの好奇心を刺激する格好の遊び場となり、メンバーにとってはまさに「自由の場」となりました。今日、この芦屋川畔の松林が「具体」誕生の象徴的なスポットとして知られるゆえんです。

「具体」は、屋外空間、ホール舞台、美術展示場等を使った実験的な「具体展」を開催します。やがてアンフォルメル運動を唱える仏批評家ミシェル・タピエと絵画を軸とした海外交流をすすめ、グタイピナコテカという常設ミュージアムを開設して拠点にするなど、活動の幅もメンバー構成も変化します。1970年大阪万国博覧会での「具体美術まつり」とグループ展が最後の大規模な活動となり、吉原の逝去とともに実質的な活動は収束します。未踏の表現に挑んだ「具体」の18年間の軌跡は、高度経済成長社会と呼応しつつ果敢に展開されたものであり、今や「具体」は、20世紀を象徴する現代美術の国際的な運動体として各方面から注目を浴びています。

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阪神間モダニズムと具体

HANSHIN-KAN MODERNISM AND GUTAI

大阪の実業家らが別荘や邸宅を構えた住𠮷村(現神戸市東灘区)を契機に、明治末から昭和初期にかけて、芦屋の海岸別荘地や松林のある芦屋川沿岸に住宅地が開かれました。さらに夙川周辺にも香櫨園や苦楽園、甲陽園など、いわゆる西宮七園(阪神間モダニズムの時代に誕生した七つの園の名をもつ住宅地)が誕生し、六甲山麓に阪神間の礎が築かれます。
当時の景観について谷崎潤一郎は、六甲山の花崗岩が砕けて出来た砂浜の白さと洋館の赤い屋根や松の緑を対比しながら描写しています。それは画家たちにとっても格好の画題でした。
阪神間モダニズムとは、郊外住宅地の形成とともに阪神間で形成されていったモダンなライフスタイルや建築、さらに実業家らによる茶の湯や美術品蒐集など、当時の生活様式全体を示す言葉です。そうした土壌を背景に戦後、誕生した「具体」は、阪神間モダニズムの延長線上に位置づけられるかもしれません。阪神間モダニズムの画家たちが題材にした芦屋浜の松林が、「具体」の野外展会場であったことも決して無関係ではないでしょう。

緑豊かな芦屋川周辺
緑豊かな芦屋川周辺