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芦屋公園での野外展(1) ─ 真夏の太陽にいどむモダンアート野外実験展 1955年
1955年の真夏に黒松が群生する芦屋川畔の芦屋公園の一画(鵺塚橋以北の区画)で開催されました。芦屋市美術協会の主催事業であり、いわば芦屋市展の番外編のようなものでしたが、出品者の約半数が「具体」関係者であり、実質的に最初の「具体展」だったと考えられます。野外での展覧会というアイデアは、芦屋市展の落選作品が会場外に無造作に折り重なる様子から、吉原治良がある種の強度を感じたことがきっかけで発案したものです。
松の木が複雑に入り組んだ広大な空間に、安価で大量に調達可能な素材で対処するなかで、作家たちは従来の絵画や彫刻といった概念に収まらない作品群を産み出しました。
なかでも白髪一雄の斧で赤い丸太に斬りつける作品や、村上三郎によるアスファルト・ルーフィングを破りながら走り抜ける作品は、「具体」における最初期のアクションとして注目されます。
芦屋公園での野外展(2) ─ 野外具体美術展 1956年
1956年の真夏に、今度は「具体」の主催事業として開催されました。10メートル四方もの巨大なビニールシートに、手製の大砲から絵具を発射して描かれた嶋本昭三の《砲による作品》をはじめ、作品は全体に巨大化しています。足跡がステンシルで刷られた帯状のビニールシートを会場の端から端まで張り巡らせる金山明の作品は、会場となった空間全体を侵食するもので、最後は松の木の上に登っていくというユーモアも見せました。
山﨑つる子のブリキ製の巨大な三面鏡は周囲の景色を反映し、村上三郎の《空》はロケットのような形状のオブジェの中に入って、丸く切り取られた青空を鑑賞するものでした。田中敦子の巨大な人形オブジェや元永定正の精霊流しのような作品など、夜間に発光する作品も増加しています。
前年よりも明確に空間との関係性を意識した、今でいうインスタレーション的な作品が際立っていました。
芦屋公園
―具体美術と芦屋川―
芦屋公園は、芦屋川下流左岸の都市公園です。そもそも芦屋川は六甲山地から流れ下る天井川であり、山麓から運ばれる大量の土砂で一気に川床が埋まり、周囲の土地よりも高くなって氾濫し、水害を起こしてきました。そのため流路を固定して高い堤防を築いて緩衝地帯のバッファゾーンとする治水対策がなされると同時に、川畔の堤防周辺は、見晴らしの良い散策や行楽の場、公園やテニスコートとして活かされました。
吉原治良の発案による屋外公園での破天荒な野外展も、堤防や松林の自然を芸術的に利用する画期的な試みとして注目されます。「真夏の太陽にいどむモダンアート野外実験展」(1955年)を実見し、前衛美術に深い理解と共感を示していた小原流三世家元華道家小原豊雲は旧知の吉原に前年に開館したばかりの東京小原会館を会場に使って「具体美術展」を開くことを提案し、「具体」が東京で発表する足がかりを得た場所です。